鶏ジェンヌの地鶏Journey!!
第3回 宮崎県みやざき地頭鶏 2024年7月17日
「鶏ジェンヌの地鶏Journey!!」
こんにちは。鶏肉大好きのライター、鶏ジェンヌです!
消費者の皆さんに、地鶏がどのように育てられ、どのようにおいしく食べられるのかをご紹介する連載です。第3回となる今回は、「黒い炭火焼」でおなじみの宮崎県のみやざき地頭鶏をご紹介します。
宮崎県みやざき地頭鶏
数日前に梅雨入りしたばかりの宮崎県。空港を出た瞬間に湿気と熱を感じました。空港から車で走ること1時間ほどで、みやざき地頭鶏を育てている阿萬農場に到着。地鶏の生産者である阿萬剛士さんが取材班を笑顔で出迎えてくれました。
旧島津藩である鹿児島県と宮崎県の一部で古くから育てられていた鶏、「地頭鶏(じとっこ)」。その美味しさから、育てていた農家の方たちが当時の地頭に献上していたことが地頭鶏の名前の由来と言われています。
昭和18年に国の天然記念物に指定されたこの地頭鶏を「宮崎の名物にしたい」という想いから、宮崎県では長年にわたって地頭鶏の研究・交配が行われてきました。
1991年にみやざき地頭鶏の前身となる「みやざき地鶏」が誕生し、その後も改良を重ねて現在の「みやざき地頭鶏」となりました。
みやざき地頭鶏は、天然記念物となった地頭鶏のオスに、オスの遺伝子をより強く反映させる「劣性ホワイトプリマスロック」のメスを掛け合わせたオスをお父さんとして、熊本、大分、宮崎の3県で共同開発された地鶏「九州ロード」のメスをお母さんとして交配されています。
これらの両親から生まれるみやざき地頭鶏は、地頭鶏の美味しさをしっかりと引き継ぎ、卵をよく産んで育てやすい性質の鶏になりました。
みやざき地頭鶏は、国が地鶏の基準として設定した「1㎡あたりの飼育密度が10羽以内」よりもさらに低い、1㎡あたり2羽以内という飼育密度で育てられています。
飼育期間は、オスが120日でメスが150日。メスだけを商品としている地鶏も少なくないですが、みやざき地頭鶏はオスも同じように美味しく食べられているんです。
―みやざき地頭鶏のおいしさのヒミツ―
生産者の一人である阿萬さんの農場には、鶏舎が8つ。年間で約2万4000羽を育てているそうです。ここ、阿萬農場では鳥インフルエンザをはじめとした防疫対策をしながらも、鶏たちをのびのびと育てたいという想いから鶏舎の外に広いスペースを設けて放し飼いにしており、鶏たちが元気に動き回っています。しっかりした足に、つやつやの羽。阿萬さんは「とにかく鶏がストレスを感じないように、自由にさせています」と、育てる上で大切にしていることを教えてくれました。
阿萬さんは、放し飼いスペースを自由に歩き回る鶏を見ながら、「みやざき地頭鶏は少し喧嘩っ早いところがあるので、広いスペースで育てて喧嘩しないようにしています」と説明。「のびのびさせている分、一羽ずつへの目配りが大変そうです」と伺うと、「休みの日も『鶏たちは元気にしてるかな』って考えちゃいますね(笑)」と笑顔で答えてくれました。阿萬さんから鶏たちへの愛情をとても感じました。
また、ヒナの鶏舎は冷えが大敵なので、しっかりと温めて適切な温度管理を行っていますが、そのほかの鶏舎は放し飼いのスペースとの温度差が大きくならないように、暑さ・寒さ対策を行いつつも自然に近い温度を保つようにしているとのこと。みやざき地頭鶏は、宮崎の豊かな自然の中でのびのびと暮らしながら、身体に美味しさを蓄えていくのです。
鶏を元気に育てるためには腸内環境を整えることが大切であるとされており、阿萬農場でもヒナの時期に乳酸菌を与えているとのこと。また、ヒナの餌にきな粉を混ぜているのだと、秘密をひとつ教えてくれました。「きな粉の甘い香りと味で、ヒナが餌をたくさん食べてくれるんです」と、阿萬さん。ヒナの時に餌をたくさん食べると、元気にすくすくと成長するので、ヒナの食欲を増す工夫をされているんですね。
―美味しくてヘルシーなみやざき地頭鶏―
みやざき地頭鶏は2021年9月に、機能性表示食品として認可されました。
2014年度から国庫事業として宮崎大学や畜産試験場等と協力し、地頭鶏の成分を分析。疲労回復や認知症予防効果のあるイミダゾールジペプチドが多く含まれることが分かり、2015年度から始まった機能性表示食品制度への登録を行ったのです。
一時期は年間70万羽近く生産されていたみやざき地頭鶏ですが、不況などにより減少。生産増を目指し、より多くの方にみやざき地頭鶏の美味しさを知ってもらうために販促PRを強化していく中で、機能性表示食品の認可を取得したそうです。
みやざき地頭鶏組合の徳留英裕専務理事は「機能性表示食品という、栄養面の付加価値を付けることでみやざき地頭鶏の価値を上げて販売促進につなげていこうとして、この取り組みを行いました」と説明します。
ところが新型コロナウイルスの流行により、飲食店が休業を余儀なくされてしまい、飲食店での取り扱いが多かったみやざき地頭鶏は、さらなる減産を迫られてしまいました。
ECサイトやふるさと納税などで消費者に直接届けられるような仕組みを活用し、コロナ禍を乗り越えた現在は再び生産増を目指しており、40万羽近くまで回復してきたとのこと。
「コロナ禍で飲食店も休業し、皆さんにみやざき地頭鶏を食べていただく機会が減少してしまいました。なかなか販促PRもできずに苦労しましたが、アフターコロナとなった今、飲食店からの注文やお問い合わせが増えてきています。生産量の回復には時間がかかりますので、一生懸命PRしても売るものがない状況になってしまうかもしれないというジレンマがあってなかなか難しいですね」と、本音をポツリ。そして、「この美味しさを全国の皆さんに知っていただきたいのでみんなで頑張っていきます」と笑顔で話してくれました。
―みやざき地頭鶏の美味しさを全国に届ける―
株式会社地頭鶏ランド日南 地頭鶏の加工センター
阿萬農場の次に伺ったのは、みやざき地頭鶏の生産から処理加工、流通・販売まで行っている株式会社地頭鶏ランド日南。近藤克明代表取締役社長と、西都加工センターの壹岐充秀センター長が工場内を案内してくださいました。
地頭鶏ランド日南では、鶏を丁寧に手で捌いていく「手ばらし」という方法を使っています。手羽さきやもも肉、むね肉と順番に捌いていき、レバーやハツといった内臓は一番最後の工程で取ります。これは、鶏肉に多いカンピロバクター中毒の予防にも効果的な手順。宮崎県には鳥刺しやたたきといった鶏肉の生食文化がありますが、この文化は行政と事業者が協力して、食中毒を起こさないための厳しいガイドラインを作ることで成り立っているもの。こちらの工場でもそうしたガイドラインを遵守していることはもちろん、世界基準であるHACCP管理に基づいた衛生管理を行っており、多くのスタッフさんが丁寧に地頭鶏を捌いていました。
みやざき地頭鶏の多くは飲食店に向けて販売されており、その多くは個人店や小規模なチェーン店とのこと。味と素材にこだわる高級店も多く、近藤社長は「中には、『この人が育てた地頭鶏をお願いします』と、指名してくる飲食店もありますよ」と言います。生産者によるわずかな味の違いに気づいて地鶏を選ぶお客様もいるので、そういったオーダーを受けたときは他の鶏と混ざらないように気を付けているそうです。
「コロナ禍は大変でしたが、ECサイトでの販売や、スーパーへ卸すことで消費者の方に直接みやざき地頭鶏をお届けできるようにもなったので良かった面もあります」と近藤社長。コロナが明け、飲食店が再開した今は新たなお問い合わせも増えてきているそうです。今後生産量を増やしてより多くの方にみやざき地頭鶏の美味しさを知ってもらえるようにしたいと言い、「みやざき地頭鶏は普通の鶏肉に比べると当然高価なので、価格に見合った価値を提供していかなくてはいけません。機能性表示食品の認可を受けたこともそうですし、丁寧な処理・加工で美しい規格で販売することもそうです。また、加工食品の開発も行うなど、みやざき地頭鶏の美味しさにさらなる付加価値をつけていきたいと思っています」と話してくれました。
みやざき地頭鶏の生産を行うぐんけい㈱が運営するみやざき地頭鶏専門店「ぐんけい」。宮崎駅前と本店の2店舗を構えており、今回は「ぐんけい本店隠蔵」へ伺いました。
同社の中西幸男代表取締役社長は、「当社のみやざき地頭鶏を飲食店さんに卸すときは、原則として1羽丸ごととしています。肉と脂はもちろん、内臓も美味しいので余すところなく召し上がって欲しいですね」と言います。その言葉通り、このお店ではみやざき地頭鶏のあらゆる部位をさまざまな調理法で提供しており、なかには焼き鳥店でもあまりない内臓の部分もメニューに載っています。腹ペコの取材陣に、中西社長のお勧めメニューを出していただきました。
まずは名物の炭火焼!宮崎産のきゅうりをつけ合わせにして提供されます。宮崎の炭火焼は全国でもかなり知名度があるメニューですが、ぐんけいさんの炭火焼は「これが本当の炭火焼……!」と思わず唸ってしまうほどの美味しさです。
炭火焼特有の黒い見た目ですが、一口噛むとじゅわっと肉汁が。中心部の火入れが絶妙で、香ばしさと脂の甘味をしっかりと感じられます。鶏は一口サイズなのでとても食べやすく、地頭鶏の弾力をしっかりと感じながらも硬さや食べづらさは少しもないので、子どもも高齢の方も美味しくいただける最高の一品です。
取材なのでお酒は我慢しなくてはと思ったのですが、宮崎名物でもある日向夏を使ったサワーがさっぱりとした甘さでとても美味しく、炭火焼と共にぐいぐい進んでしまいました(笑)。
「炭火焼きを担当するまでに半年以上修行をしています」と、中西社長。現在も修行中のスタッフさんがいて、この間のテストでは「お客様に出せるまでもう少し」と評価をされたとのこと。自社で育てている鶏だからこそ、最高の状態でお客様に提供したいという社長の想いに応えるために、スタッフさんたちも一生懸命修行されているそうです。
また、炭火焼はお店によって味付けが違うのが特徴ですが、ぐんけいさんでは中西社長が3日かけて作る特製の塩を使っているそう。みやざき地頭鶏の脂の甘味を引き立て、肉の旨味がはっきりとわかる味付けになっています。
続けていただいたのは、むね肉を使ったよだれ鶏。中華料理で人気のメニューですが、こちらのよだれ鶏は、ピリ辛ソースの濃い味に負けず、みやざき地頭鶏の肉の旨味をしっかりと味わえます。
また、特筆すべきはむね肉のジューシーさ。パサつきは全くなく、適度な脂も感じることができ、「ヘルシーで美味しいむね肉」の魅力がたっぷり詰まった一品になっています。
変わり種メニューでは、きもの塩辛をいただきました。「肉も内臓も、一羽丸ごと味わっていただきたいので、色々メニューを考えています」と中西社長。一口食べてみると、しっかりしたきもの味を感じながらも臭みは全くなく、思わず「美味しい」と呟いてしまいました。宮崎の焼酎だけでなく、日本酒にも、ごはんのおともにもなりそうなこの塩辛。塩辛独特のクセがごま油で和らいでとても食べやすいので、塩辛が苦手な方でも美味しく食べられると思いました。
お話を伺いつつもお箸が止まらないなか、締めにいただいたのはみやざき地頭鶏のラーメン!ここまでみやざき地頭鶏のお肉の美味しさを思いきり味わってきた最後に中西社長は「みやざき地頭鶏は、実はスープも最高に美味しいんですよ」とにっこり。ひとくち飲んでみるとため息がこぼれました。さきほどから肉を噛み締めるたびに感じていた脂の甘味と肉の旨味がぎゅっとつまっているのにとても優しい味わい。やや細い麺にスープがしっかりと絡んで、まさに「締め」にぴったりの美味しさでした。
過去の記事
-
第3回 宮崎県みやざき地頭鶏
旧島津藩である鹿児島県と宮崎県の一部で古くから育てられていた鶏、「地頭鶏(じとっこ)」。その美味しさから、育てていた農家の方たちが当時の地頭に献上していたことが地頭鶏の名前の由来と言われています。 昭和18年に国の天然記念物に指定されたこの地頭鶏を「宮崎の名物にしたい」という想いから、宮崎県では長年にわたって地頭鶏の研究・交配が行われてきました。 1991年にみやざき地頭鶏の前身となる「みやざき地鶏」が誕生し、その後も改良を重ねて現在の「みやざき地頭鶏」となりました。
-
第2回 秋田県比内地鶏
安心と信頼の比内地鶏ブランド。 秋田県では、消費者の信頼に応えるために「比内地鶏ブランド認証制度」で生産者の飼育管理方法や販売事業者の品質管理方法などを定めていて、比内地鶏に関わる生産者や販売事業者の多くが、ブランド認証制度に申請・登録しています。
-
第1回 福島県会津若松市の会津地鶏
500年以上の歴史があると言われる会津地鶏。 一目見た瞬間に思わず「きれい!」と声を上げてしまいました。